2026-06-01から1ヶ月間の記事一覧
◆瞳が語るもの 岳志は、厨房の暖簾をくぐった瞬間、ふと足を止めた。見慣れた奈葉の隣に、見知らぬ青年―― 亮太が、どこか落ち着かない様子で立っていたからだ。だが、その違和感は、すぐに静かな確信へと変わっていく。(そうか……奈葉は、前を向こうとしてい…
◆札内駅に降り立つ 「亮太くん、着いたよ」 奈葉は前方のドアへ向かい、運転席横の運賃箱に迷わず切符を入れた。 (これがワンマンってやつか。鉄道というより、バスに近い感覚だな) 亮太も同じように切符を入れ、ホームへ降り立った。 6月だというのに、ひ…
◆空腹の時間 奈葉と亮太は雑貨店を出ると、広小路商店街のアーケードを並んで歩き始めた。 奈葉の手には、先ほど買ったすずらんのチャームが入った小さな紙袋。 ときどきそれを確かめるように軽く揺らす仕草が、なんだか可愛らしく見える。 頭上に漂うやわら…
◆噴水モニュメント シルバーウィーク、帯広の駅前広場は十勝ならではの澄んだ初秋の空気が満ち、やわらかな光が差し込んでいた。 人の行き来はあるものの、どこか時間がゆっくりと流れているような静けさがある。 そのなかで、亮太は緑色のガラス張りの噴水…
◆眠れないまま迎えた朝 シルバーウィーク初日の早朝4時半。 スマホのアラームが鳴り、亮太は浅い眠りからゆっくりと意識を引き上げられた。 前夜は、宿泊先のことを考え始めてしまい、なかなか寝つけなかった。 奈葉から伝えられているのは「1泊2日」という…
◆動くべき時 亮太が奈葉との関係をなかなか進めないことに、祖母はしびれを切らしたように口を開いた。 「亮太、その彼女はあんたを『待っている』んだよ」 「待っている……?」 亮太が思わず聞き返すと、母がその言葉を受けるように続けた。 「そうじゃなき…
◆雨の中の不安 激しかった雷鳴も次第に遠ざかり、空を割るような雨音は、いつしかアスファルトを優しく叩く音へと変わっていた。 奈葉は、雨水を吸って重くなったパンプスのまま、ホームセンターへ続く緩やかな坂道を小走りで上がって行く。 折りたたみ傘の…